地域科学研究会 セミナー研修報告・第4部

第4部  横浜国立大学副学長・教授 国土交通省交通政策審議会地域公共交通部会長 中村文彦氏 から、「近未来の地域交通とそれを支える計画制度の方向性」の講義があった。

地域交通の論点と課題は、一つは環境問題、交通事故、高齢者等社会的疎外の視点であり、もう一つは自家用車への過度な依存の見直しの必要性だ。

近未来の地域交通の革新に向けて3つの視点がある。①シェアリング・自動運転・MaaSなどの技術動向の視点 ②持続可能性、創造性、多様性からの地域の近未来を考えていくべき視点 ③ウオーカブル(歩きやすいこと)、レリアブル(乗り物を信頼すること)、エンジョイブル(楽しむ場所のあること)で、交通の革新を考えていく視点 である。

公共交通の不便な郊外で、車の使えない高齢者が外出できなくなり、社会的疎外が現実問題となっている。交通政策を考える上での課題は、安全で円滑(渋滞解消)なのは当然であり、社会課題の解決のためや、都市・地域の持続可能性のために、さらには、生活の質の確保、保持、改善&向上のため、が考えられる。その課題解決の方向性は、自家用車を使わなくても済む場面を増やし、自家用車への過度な依存からの脱却が必要だということだ。

新しいキーワードに「シェアリング」「自動運転」「MaaS」があるが、まだまだ技術面や制度面で、クリアしていかなければならない課題が多い。「シェアリング」は、公共交通利用を減らしているし、道路混雑を増やしている。「自動運転」は、まだまだお金がかかるし、バスは運賃箱と乗務員が義務付けられている。「MaaS」は、個別の交通手段の質が悪いままであり、地域のすべての移動選択肢を含んでいない。そのような状況では、割高な月額制なら利用されない。現状における、これらの不都合をクリアするための、調査研究が進められているところだ。

近未来の地域交通を創造するにあたり、目的を政策領域で考えるならば、「環境問題」「防災&災害復興問題」「地域活性化問題」「健康問題」がある。特に「健康問題」は行政課題として重要で、新たにヘルスケアMaaSの考え方が生まれている。ヘルスケア推進を、MaaSがつなぐ「交通」で外出し歩いてもらったり、ケア支援、認知症対応など社会包摂で、健康、安全な地域になり医療費を減らすことができる。削減できた医療費の余剰財源の一部を、交通財源に投入することで、交通システムの維持が可能となる。

「近未来の地域交通とそれを支える計画制度の方向性」を考える根底には、需要側、供給側、制度枠組み側のそれぞれの覚悟とぶれない姿勢が不可欠だ。需要側(利用者)には、これまでの交通の常識を払拭する覚悟がいる。供給側(交通事業者)には、これまでの道路や鉄道、バス、タクシー等の常識がなくなる覚悟がいる。制度枠組み側には、多元的で深いデータの解析に基づいた計画と評価に、ぶれが生じないことだ。いずれにしても、何を重要な要因とするのかの優先順位は変わらず、むしろ明確にしなければならない。それは、「人間」「豊かさ(時間短縮ではない)」「安全で安心」「地球環境と生活環境」、最後に「コスト」の順であることだ。

 

地域の魅力の再認識と新発見によって、高齢者も目的をもって移動できることで地域が活気づき、若者も元気になるのだろうと思います。新しい技術や制度を駆使して、大切にしなくてはならないコトを見失うことなく、三豊市に相応しい近未来の地域交通を模索していきたいと思っています。4名の先生の講義は、いづれも内容豊富で奥深いものばかりでした。貴重な時間をいただいたことに対し、心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

地域科学研究会 セミナー研修報告・第3部

第3部  小田急電鉄(株)経営戦略部次世代モビリティチーム 藤垣洋平氏 から、 「共通データ基盤『MaaS Japan』で実現できる MaaSアプリ&サービス」の講義があった。

小田急は、90年間積み上げてきた安心・快適という普遍的な価値を、これからのテクノロジーを生かして、「会いたいときに、会いたい人に、会いに行ける」、次世代の”モビリティ・ライフ”をまちに生み出していこうと取り組んでいる。

MaaSのとらえ方は、2つの類型に分けて考えることができる。類型1として、複数のサービスを統合した「統合型」と、類型2として新しい柔軟な交通サービスの「新サービス型」がある。「統合型」は、複数の交通サービスを対象とした検索・予約・決済管理等を一体的に提供するサービスで、統合的な検索サービスや一体的な決済サービス、定額制パッケージ、スマートフォンアプリがある。「新サービス型」は、利用者のニーズに柔軟に対応できるICTを活用した新しい交通サービスで、オンデマンドバスやカーシェアリング、自動運転サービスがある。

MaaSの活用に取り組む上での考え方は、「提供しているサービス」ではなく、「達成される状況」をもとにして考えれば、人や地域によるそれぞれに相応しい形が見えてくる。利用者の移動特性や置かれている都市環境を踏まえ、利用者にどのような移動が可能になり、そのサービスに対してどう感じるか、どう感じることを目指して設計されているのか、という考え方が大切だ。MaaSの根本にある考え方をもとにしたサービス設計は、「提供されるサービス(商品)」だけでなく、「どのようなシーン(体験)」であるかをトータルデザインすることだ。

そこから生まれたのが、MaaSアプリ「EMot」だ。 ”もっといい「いきかた」” のために Emotion(感動させる)とMobility(モビリティ)の融合によって、日々の行動の利便性をより高め、新しい生活スタイルや観光の楽しみ方を見つけられるアプリとして活用してほしい。現在、「EMot」を使った、観光型MaaS「デジタル箱根フリーパス」と郊外型MaaS「新百合ヶ丘エリア 買物利用者向けバス無料チケット」、MaaS×生活サービス「飲食サブスク」の3つのタイプの実証実験を行っている。

「共通データ基盤 MaaS Japan」は、データ基盤を、小田急以外の事業者や自治体のMaaSにも活用できる。他の交通事業者・自治体等がMaaSの実証実験を容易に実施できる環境を提供する。これまでに着手している「MaaS Japan」を活用・連携したアプリ展開は、①海外からの旅行者が、使い慣れたアプリで日本を周遊できる環境を目指すために、WhimとZipstrの海外アプリと連携 ②東京都「MaaSの社会実装モデル構築に向けた実証実験」として、立川駅周辺エリアの「お出かけ」をサポート などがる。

「EMot」も「MaaS Japan」も、交通サービスを適材適所で組み合わせることで、自家用車と同等以上の便利さを提供し、交通サービス利用中心のライフスタイルを提案するものだ。MaaSを通じて、「会いたいときに、会いたい人に、会いに行ける」次世代の”モビリティ・ライフ”を社会に生み出していく。

 

行きたくなるようなワクワクする、バショやコトがあり、そこで人との出会いがあるまち。住みたくて、住み続けたいまちにするために、ストレスなく移動できる環境を構築していくことが地域創世につながっていくことを、再確認できた講義でした。

地域科学研究会 セミナー研修報告・第2部

第2部  福島大学経済経営学類准教授 国土交通省交通政策審議会地域公共交通部会臨時委員 吉田樹氏 から、「次世代交通サービスと暮らしの足の確保に向けた協働の進め方~自治体と交通事業者等の連携━交通サービスの開発と運営~」の講義があった。

地方行政の公共交通政策は「何のために」必要か。高齢者の移動手段確保に注目が集まるが、実は、市民生活を支える地域公共交通の多くは不採算であり、自家用車で移動する人が「移動手段確保」を考えるのはなぜか。また、すでに都市圏でも営業所撤退や大幅減便、補助金要望がきている。このような現状で、「公共交通政策を移動困難者対策」ととらえていては、移動困難者対策も公共交通再生も地域再生も果たせない。

地域における「くらしの足」が抱える問題は、大きく3点ある。①自家用車を運転しないと活動できない ②目的地が多様化して小口化している ③交通を支える担い手が不足している がある。福島県南相馬市民の後期高齢者の「5年前の外出状況との比較」アンケート調査で、自家用車の運転を中止することで、活動機会が低下し「楽(愉)しいお出かけ」が失われつつある現実がある。そこから推察されることは、「交通の躊躇は、果たして本人の積極的な選択なのか」「外出しにくい環境は、社会が作っているのではないか」「交通への不安が高い地域は、将来も生き残れるのか」ということだ。

交通政策基本法(2013施行)にある交通に関する施策の推進にあたっての認識は、①「生活」を支える「くらしの足」としての地域交通 ②「交流」を支える「おでかけの足」としての地域公共交通 であると解釈できる。よって、『地域公共交通マネジメント』は、市民の「くらし」を守り、「交流=おでかけ」の機会をつくる地域公共交通を、ビジネス(経済)と合意形成(社会)で創出・継続するプロセスといえる。

今、求められる『地域公共交通マネジメント』は、「空間やコンテンツ」と「モビリティ」を両輪で考えることだ。「魅力的な空間やコンテンツ」は、地域ごとに「異なる魅力」(賑やかな街、豊かな郊外・・・)があることで、交通行動は生まれる。そこには、土地利用計画、施設整備計画、観光政策・・・との関連がある。「魅力的なモビリティ」については、MaaS・自動運転・オンデマンド交通などは、手段であって目的ではなく、既存の公共交通を含めた、「新たなモビリティツール」が市民の交流を促し、暮らしを支援する機能を持つことが重要だ。

青森県八戸市における、「共同運行化」と「マネジメント」の実証事例は、事業者間の調整機能による競争政策から「共創政策」への転換において、分散する路線を「事業者連携」によって、公共交通の品質の向上を実現した。また、栃木県足利市の地域公共交通網の「面的」な再構築の事例では、クルマ社会の地方都市でも、みんなが「好んで」マイカーで外出しているわけではなく、「需要に応える」だけでなく、「ライフスタイルの提案」が鍵であった。それは、公的支援の考え方として、「赤字だから支援する」発想ではなく、「おでかけ機会を広げる投資」ととらえているからだ。さらに、会津若松市と青森県田子町の事例では、「束ねて×減らす」の視点で、生活路線と観光路線や医療機関搬送バス、スクールバスを統合一本化するなどして、生産性向上を実現した。

他に、●生活圏単位のネットワーク再構築 ●次世代モビリティサービス━MaaS ●公共交通に求められる「見せ方改革」 ●超高齢社会のMaaSとタクシーへの期待 ●地方都市のタクシー定額制サービス ●「デマンド交通」の課題と展望 ●「のりしろ」で「くらしの足」を豊かにする ●MaaS構築に求められる「眼差し」 があった。

最後に、3点にまとめる。①公共交通づくりは「おでかけ」の機会を広げる投資である。「赤字補填」「赤字は問題」という論理から、「おでかけ機会」を確保するため、公共交通へ「投資」するという発想に転換したい。 ②地域公共交通もMaaSも、地域生活と交流を支える「道具」である。「使ってもらってなんぼ」だからこそ、カイゼンが必要だ。 ③地域公共交通マネジメントは、地域創世のけん引役であり、MaaSはその土台となる。地域公共交通は、「現場の近さ」が特徴で、「くらし」と「おでかけ」の足の議論はまちづくりの「第一歩」だ。それぞれの地域にあった「地域公共交通マネジメント」の確立こそが地域創世につながっていくのだ。

 

「くらし」と「おでかけ」の足の確保に向けた協働の進め方の実践を通して、示唆に富んだ貴重な講義を聴くことができたことに、心から感謝します。地方公共団体と民間事業者との協働によって、好きな時に好きなように好きなところへ移動できるツールとしての地域公共交通が、実は魅力的なことや場所を有機的につなぎ成長させるキーツールになることに、大きな気付きをいただいた講義でした。小林一三や後藤慶太、堤康次郎など、鉄道というモビリティで活力あるまちを建設していった先人の執念と発想に、時代は変われども地域創世はここにありと感じています。

 

地域科学研究会 セミナー研修報告・第1部

令和2年1月27日(月)に、東京都千代田区にある剛堂会館で開催された、「地域公共交通計画制度とその運用の改革」をテーマにしたセミナーに参加しました。4名の講師から、それぞれの立場からの専門的な講義をいただきました。4部に分けて報告します。

 

第1部  国土交通省総合政策局地域交通課長 原田修吾氏(代理) から、「地域の移動を担う交通手段の確保・維持に向けた国の動向について」の講義があった。

人口減少、超高齢社会の本格到来となった。人口は2008年をピークに減少局面に入っている。三大都市圏においても人口減少に入るが、都市と地方の人口格差は拡大する。人口構造の推移をみると、2025年以降、「高齢者の急増」から「現役世代の急減」に局面が変化する。高齢者の免許非保有者、免許返納の数は、大幅に増加する。高齢者を中心に、公共交通がなくなると生活できなくなるのではないか、という声が大きい。自動車運転事業は、労働環境等の影響で若者が敬遠し、運転手不足が深刻化している。市町村における地域公共交通の組織体制も専任担当者が不在の市町村は約8割で、人材不足が課題だ。このような中で、国としても自治体が地域交通の確保(地方バス、離島航路支援等)に関する「特別交付税交付額(地方負担分の8割を交付)」は毎年増加傾向にある。

平成19年に地方公共交通活性化再生法を制定、平成26年に改正し①まちづくりと連携し、②面的な公共交通ネットワークを再構築するため、「地方公共交通網形成計画」を規定した。しかしながら、人口減少の本格化、運転手不足の深刻化で、地域公共交通の経営環境は悪化し、路線廃止が相次いでいる。このため、持続可能な地域の旅客運送サービスの提供を確保することを目的とする、地方公共団体による「地域公共交通計画」の策定を努力義務化し、国が予算・ノウハウ面の支援を行うことで、地方における取組をさらに促進する。

地域の実情に合わせた交通手段の見直しは、地方公共団体、交通事業者等の地域の関係者の協議の下で、路線バスについては、生産性の向上を図るとともに、地域の実情に合わせてダウンサイジング等(車両の小型化、運行経路やダイヤの見直し)を行いつつ、公的負担によるコミュニティバス、乗り合いタクシー等の運行を検討する。また、自家用有償旅客運送の活用、スクールバス、福祉輸送等の積極活用により、地域の暮らしや産業に不可欠な移動手段を確保する。

MaaSへの取り組みが急速に進められている。MaaSとは、スマホアプリにより、地域住民や旅行者一人ひとりのトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスだ。新たな移動手段(シェアサイクル等)や移動目的に関連したサービス(観光チケットの購入等)も組み合わせることが可能となる。MaaSの円滑な普及のための措置として、①MaaSに参加しようとする交通事業者等は、MaaSの実施にかかる事業計画の申請を行い、国土交通大臣の認定を受けることができる ②認定された事業計画に定められた交通事業者(鉄道・バス・フェリー)が運賃・料金の届け出を行う場合、共同で行うことができる ③都道府県または市町村は、MaaSの実施に関し必要な協議を行うための協議会を組織することができる これらの措置によって、運賃届け出手続きのワンストップ化と、交通事業者のMaaS関係者の協議・連携の促進が図られることとなる。

 

国の地域交通政策を立案する中枢の担当課からの講義を聴講できたことは、三豊市が挑戦していこうとしている、豊かさを実感できるまちの実現に向けての具体的政策への取り組みの裏付けにもなり、実に有意義な時間となりました。地域の移動を担う交通手段の確保・維持に向けた国の施策の方向性を確認できたとともに、広くて居住地が分散するわがまちの、未来の交通手段の考え方が整理できました。