自治体病院の経営改革先進事例視察研修・2

三豊総合病院企業団の役員及び議員の視察研修の2件目は、熊本県上天草市の 『市立上天草総合病院』 です。
研修の目的は、典型的な過疎地の地方市でありながら、医師や看護師などの確保が順調であるのは、なぜなのかを知ることです。
天草5橋で有名な天草諸島にあり、平成16年の町村合併で上天草市立総合病院となって、上天草市民32,000人はじめ天草上島地域住民の医療を担う中核病院となっています。
施設概要については、次のようになっています。
① 病院施設
   病床   195床
   診療科  22科 (特に、小児科・産婦人科の設置は、安心して出産し育てられる地域のために死守している)
② 看護学校施設
③ 健康管理センター
④ 訪問看護ステーション
⑤ 介護老人保健施設
⑥ 在宅介護支援センター
⑦ 居宅介護支援センター
⑧ 一つの診療所 
です。
これらを支える職員の状況は、次のようになっています。
医師 22名、看護師 107名、医療技術員 32名の他、看護学校職員、老人介護関係職員など、全職員330名ほどで33億円に近い収益を上げており、職員給与費比率は66%となっています。
病院長の樋口先生は、平成3年の新病院オープンや診療報酬改定で、年間3~40,000千円の赤字続きであった病院を、平成19年4月の地方公営企業法全部適用をきっかけとして、黒字転換に向け経営再建に取り組んできました。
借金 22億円、不良債権 3憶20,000千円が重くのしかかっていました。
特に、不良債権を5年間で黒字にする計画を立て、毎年60,000千円を捻出するために、職員のボーナス2割カットのお願いもし、計画初年度から黒字経営に転換しています。
経営改善への取り組みのポイントは、 “職員の協力” と “地域との関係づくり” でした。
職員組合との協議に置いても、職員は病院そのものが無くなれば自分たちの職場が無くなることを、理解してくれたのです。
地域との関係づくりの一つは、地域ボランティアを通して病院のことをもっと知って欲しいとの考えから始まりました。
地域ボランティアの皆さんにとっても、自分たちの健康と命を守ってくれる病院を応援したいとの思いで、活動が活発に行われています。
地域との関係づくりのもう一つは、出前講座や清掃活動への参加、温水プールの一般市民への開放などによる、地域活動への積極的参加です。
このような色んな取り組みによって、経営状態は改善されてゆきました。
過疎地の病院における医師確保と経営改善への取り組みは、医師確保できなければ赤字に転落するという、当たり前の因果関係にたいする挑戦でした。
過疎地の病院を取り巻く現状は、
・慢性的な医師不足
・人口の減少(年間約500人減少)
・高齢化
・病院の立地条件の悪さ
・衣食住の環境整備不足
などが上げられます。
これらの厳しい現実にあって、少しでも改善してゆく一つの方法が、インターネットによる医師募集でした。
従来の事務的な掲載ではなく、上天草の自然や日々の暮らしの豊かさやすばらしさ、アフター5の楽しさを全面に出した画面構成にしました。
また、地域医療連携通信の発行や、市広報紙に病院情報ページを開設しました。
その結果、平成17年~平成20年の間に、ホームページを見て就職した医師が5名となりました。
その中には、産婦人科1名、小児科1名がいます。
就職まで至らなかった医師も2名いますが、その理由は家族の反対によるもので、原因は生活の不便さや子どもの教育環境への不安でした。
過疎地の病院における医師確保は、多くの医師に “定着” してもらうためにも、自治体との協力の下に衣食住の環境整備と、都市部との交通手段の整備が必要なのです。
地域医療をまもるために必要なことは、病院だけではどうしようもないことに気づくことです。
住民参加型の経営で、地域をまもり活性化することができるのです。
地方衰退で、病院まで地域から無くなってしまえば、地方はますます衰退して “まち” そのものが無くなってしまうという、強烈な危機感が後押ししています。
天草地方の豊かな自然の中で、樋口先生が語る熱い言葉の数々から、 「地域医療が医療なのだ」 と感じたのでした。
今回訪問した二つの病院は、いずれも、その地域に相応しい役割をしっかりと担っていることを確認できた、とてもすばらしい研修でした。