自治体病院の経営改革先進事例視察研修・1

今年度から、地方公営企業法の全部適用となり、新たな経営体制となった三豊総合病院企業団の役員及び議員による視察研修が実施されました。
平成22年11月4日(木)から6日(土)の3日間の日程で、福岡県八女市の 『公立八女総合病院』 と、熊本県上天草市の 『市立上天草総合病院』 を訪問しました。
今回の視察研修の目的は、自立する自治体病院の先進事例を目の当たりにするためです。
先ず訪問したのは、福岡県最南部に位置する八女・筑後保健医療圏域の14万人ほどの医療の中核を成す、公立八女総合病院企業団の経営する、 『公立八女総合病院』 です。
2006年4月より、地方公営企業法の全部適用によって企業団を組織しました。
現在、29診療科、330床の病床と、介護老人保健施設90床の事業を展開しています。
医師 約60名、看護師 約350名など、全職員約600名で80億円を超える収益を上げています。
収益対費用構成比率は、給与費は44%前後で、材料費は33%ほどとなっていて、30%前後を目指しています。
『公立八女総合病院』 の経営改革は、2000年の国の行った第4次医療制度改革によって直面した、自治体病院のデフレスパイラルからの脱却を余儀なくされた、平成18年の “全適” から始まります。
その時までのデフレスパイラルは、次のような連鎖で深刻化してゆきました。
1.医師の偏在による医師不足・診療報酬のマイナス改正
2.経営悪化
3.処遇悪化(正当に評価することができない)・・・モチベーションの低下
4.医師の退職・・・残った医師の負担・・・退職の連鎖
5.更なる経営悪化・・・医療機器の購入が困難
6.病院機能と医療の質の低下・・・安心して仕事に専念できない上、勉強ができない・・・モチベーションの低下
7.退職者の増加
8.更なる経営の悪化
9.患者からも職員からも選ばれない病院
10.自治体病院としての役割は果たせなくなる
このような分析の結果、医師をはじめ職員のモチベーションの向上が病院再生の要諦だと決め、 “全適” と同時に給与制度改革を行い、 「職員からも選ばれる」 ための経営展開を目指すこととしました。
職員にとって魅力ある病院とは? を考え、突き詰めてゆく作業の中で、 「安定した健全経営」 や 「高度で良質な医療の提供」 が基本にあって、結果として “患者様から選ばれる病院” となることに気づいたのです。
それは、経営展開と一体化した取り組みが重要だということです。
給与制度改革の基本は、人事制度でした。
1.年功序列の給与体系を廃止する。
2.各職位・責任に応じた人事制度とする
3.能力を果たせない職員は降格・降職を行う。
その上で、職員のモチベーションを発揮させる給与制度改革で、次の3つを行いました。
【賃金制度】 医師及び幹部職員は年棒制とする。
        一般職員は能力給・職務給制とする。
【賞与精度】 固定の期末手当に加え、経営とリンクした業績手当(決算賞与)制を導入。
【退職金制度】 56歳の早期退職制度を恒常化。
これらのことで、医師の中にも仕事を早く済ませようとする動きが生まれ、業務の効率化とともに時間外検査の減少で、看護師からも喜ばれています。
医師の職務手当は、1~19の職務手当となっていて、その評価を過去4年間の医師1人当たりの医業収益額を基本に診療科ごとに年間目標収益額を設定し、4半期ごとにその達成度に応じて評価決定することとして、大幅な年俸上昇も可能な制度としています。
給与制度改革の他に、 “職員からも選ばれる” 病院づくりの一環として、子育てしながら働く職員のために、通常の保育所と病児・病後児保育所も併設した幼稚園を確保しています。
そこでは、病院と子どもたちとのふれあいや対話の機会を設け、安心して仕事ができる関係に取り組んでいます。
医師確保の手法の一つとして、ホームページによる短時間勤務の女性医師募集を行っています。
「子育て中のママサン医師を応援します」 として、
出産・育児などによるブランクや時間的制約など、ライフスタイルに合った職場環境の提案の努力を重ねています。
職員のモチベーション発揮での経営再生は、医療とは “人である” ことを示しています。
地域にあてにされ、無くてはならない自治体病院は、経営者と職員の 「やる気」 をどのように具現化できるのかに尽きるのだと知った、経営に対する気迫を感じた研修でした。